2020年01月19日

思い出話 4

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先生の実家は、ぶらくり丁から路地を二三本入ったところにあり、今から考えると何となくうす暗い感じのする通りに有った。R君もそこを訪ねるのは初めてらしく、多分住所を書いたメモ書きだったのだろう、を見ながら、ようやく探し当てたという感じであった。
「善さんあったでぇ!ここやここや。」
と嬉しそうに、大声を上げた。実のところそれでも私は、彼が私をどこに連れていきたいのか、まったく理解できていなかった。
「このうちなんやねん?」
と尋ねる私に、R君が答える間もなく開き戸があいて女の人が顔を出した。そして私達二人をじっと見つめて
「あれあなた達、中学校の時の生徒さんよね、確か?」
と、尋ねた。
「今日は何か?それにしてもよく訪ねてきてくれたわねぇ。」
という先生にR君は
「僕達大学生になったんで。僕は和歌山大の2年生、善さんは一浪して阪大に入ったんや。」
と誇らしげに答えていた。
立ち話もなんだからと促されて私達二人は、客間に通されたのだが、行きたいと言っていた筈のR君はいかにも居心地が悪そうで、止むを得ず私は中学の頃のことを話すことにした。
「そうねぇもう六年もなるのねぇ。君達の学年が卒業した次の年に転勤したの。でも君達の中学校は、初めてのお勤めだったから、なんとなく印象が強いの。」
と、ようやく話が盛り上がってきたというのに、いきなりR君は
「そろそろ帰ります。」
と訳の分からないことを言い出した。先生は、
「わざわざ来てくれたんだから、晩御飯くらい御馳走するわよ!」
と仰られたのに、R君は怒ったように
「善さん帰ろう!」
と腰を上げた。
先生の家を出てから和歌山市駅までは、R君は一言もしゃべらなかった。私といえば、何やらキツネにつままれたようで、それでも話しかけることもできず、二人して南海電車に乗り込んだ。そして電車が動き始めるのを待つかのようにR君はそれこそ満面の笑みで
「先生やっぱりべっぴんやったのう。」
とつぶやいた。
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posted by zen at 00:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 雷人独白