雷放電の野外観測は、シンガポール島の西端に近いChao Chu Kang 墓地の一角で行われていた。都合の良いことに、墓地の中には東西、南北それぞれ100m程度のほぼ正方形の空白地があり、そこに70m〜80mほどの間隔をおいて高さ50mの二つの鉄塔が建てられていた。その鉄塔に避雷針を装着、あれこれ性能を確認しているということだった。
私があきれたのは、鉄塔間に感覚5m程度で電界計を「稠密」に設置していたことで
「こんなに沢山配置しても、無駄やんか?」
という私の指摘に
「デジタルでデータロガーに記録してますから。」
という的を得ない答えが、自信満々で返って来た。
そもそも雷雲内電荷の作る地上での電界強度を測るべく設計された装置なのだから、数メートル離して測定して何が判ると考えての観測なのだろう。数メートルの間隔なんぞ、雷雲大きさからみればほとんど同じ点で、確かに草木などからのコロナ放電による電荷軍の影響も受けるだろうが。
後日談ながら、これら30台近い電界系は、10ヘルツサンプリングで24時間記録しており、数か月毎に観測結果を再生していた。長い時には一年間分を月毎に出力していたようで、デジタル記録の恩恵なんぞ全くないというのが私の実感であった。ただ彼らはデジタルデータをプリントアウトしてそれぞれを比較し
「この時刻に雷雨があったようですね。出力の傾向は皆同じですね。」
と妙な納得をしていた。私は社長に
「なんか無駄な事やってるなぁ。誰があの観測計画したのですか?」
と尋ねても
「日本の本社。私はあずかり知らないのだ。」
との返事しか返ってこなかった。
そして翌年の日本の夏を迎える頃、岐阜大学の王さん一行もやって来て、光学観測、早い話ビデオカメラでの記録に参加することになったのだが、結局のところ大した成果もなかったように記憶している。

クリックして投票を!