私の大学院時代の研究は、理論というには恥ずかしながら、もっともらしい式をいじり結果を数値計算をするといった理論風の研究であったので、助手となった空電研究所の測定・観測を主体とする研究スタイルは、正直全く初めての経験であった。同じ階の第六部門には電気学会の電磁界理論研究会で出会ったことのある鷲見助教授がいらっしゃったけれど、それ以外には見知った教官はいなかった。まぁいずれにしても、大阪大学時代の積み重ねは、ぶっちゃけあまり役には立たず、技官の二人にあれこれ教わりながらの文部教官・助手生活のスタートであったと理解している。
助手公募の案内にあった環境電磁工学の研究は、仲井教授が自動車流(高速道路)や新幹線のパルス電磁雑音に測定を開始していらっしゃって、空電研究所(愛知県豊川市)近くの東名高速道路や東海道新幹線に電磁雑音の測定に同行するよう命ぜられた。仲井教授は雷放電起源のインパルス性電磁雑音の統計で学位をとられていたのだが、1980年台初めには、ディジタル放送の実用化が見え始めていたこともあって、人工のインパルス性電磁雑音の研究に舵を切られたというのが実際のところであったのだろう。だから野外の観測に加え、D. Middleton のIEEE EMCの論文を奨められ、仲井教授と二人で輪講した。随分と後になってあの時の仲井教授の意図するところを理解できるようになったけれど、その頃には私自身は生涯の研究を大気電気と決め始めており、後戻りすることはなかったのである。

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