2018年09月21日

雷から身を守るには

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10年前の今日の話題
落雷の話をしたい。落雷にはまばゆいまでの光と,おどろおどろしいまでの音が伴う。ご存知のようにといってよいだろうか,前者を電光,後者を雷鳴という。電光を「雷光」と呼んだり,「稲光」とも呼んだりすることがあるけれど,「雷光」はあえて言うなら誤用である。余談ながら,広辞苑などの国語辞典を開いてみて確認して欲しい。電光の項には,ていねいな「定義」が示されているけれど,雷光の項には,わずか一行の説明である。
余談はさておき,電光と雷鳴の話である。良く戴く質問に,
「稲光を見てから,ゴロゴロを聞くまでの間隔が長かったら,落雷被害に遭いませんね?」
というのがある。電光は1秒間に地球を七回り半,30万km,走るのに対し,雷鳴は1秒間で300m程度しか伝わらない。実は電光も雷鳴も落雷の瞬間に発生しており,電光はその速さから落雷の瞬間に私達の眼にとまる。一方雷鳴は音速で伝わるので,通常電光から遅れる。落雷点までの距離は,両者の時間差に比例するのである。だから10秒遅れなら3km,20秒遅れなら6km,30秒遅れなら9km離れた地点に落雷していることになる。10秒程度の時間差なら雷鳴も結構大きく安全だとは思われないだろうが,30秒程度なら9kmも向こうだから安全だと判断されるらしい。ただ私の答えは「否」で,その答えを聞いて質問された方は怪訝そうな顔をなさる方が多い。なまじ光と音の伝搬の速度の差をご存じのため,皮肉な言い回しながら,「生兵法は怪我のもと」というのが,私の本当に差し上げたい答えである。そして残念ながらこの誤解はかなり多くの方々にまで行き届いている。雷放電物理の研究者としては,大いに責任を感じるところで,今日はこの誤解を解くことにしたい。
とはいえ稲光を見てから雷鳴を聞くまでの時間差で,大体の距離を知るという行為は間違ってはいない。ただ雷雲は直径10〜15km程度の広がりを持っており,落雷を起こす電気(正確には電荷)はその雷雲のあちらこちらに溜まっていると思って良い。それにもうひとつ,周囲の環境に依存するとはいえ,雷鳴の届く範囲は15km程度であるから,
「雷鳴が聞こえるという事は,頭上の雲が電荷をもった雷雲である。」
ということになる。だから今9km向こうに落雷したからといって,次に真上から落っこちてこないとは限らない。いやむしろ遠くの電荷が落雷でなくなったので,次は頭上の電荷が落雷する可能性も低くはないのである。速い話雷鳴を聞いたら,稲光からの時間が長かろうが短かろうが,危ない危ないと考えて戴きたいのである。
このように申し上げると,またまた訳知り顔のお方なら
「そうですね,電気は速く走りますからね!」
と,大阪風にいう突っ込みを入れて下さるが,電気の走るのが速いから次に来るのではなく,頭上の電荷が落雷してくるという点を強調しておきたい。つまるところ雷鳴を聞いたら,そしてそれがもし駐車場などのだだっ広い場所や登山路であったら,何はさておき安全な場所に逃げ出すことを考えて欲しいのである。なお,安全地帯への逃避行についての詳細は,拙著「雷に魅せられて」(化学同人社刊)を読んで頂ければ幸い。この本は専門書ではなく,雷から身を守るための啓発書。中学生や高校生以上の方なら,十分読んでいただけるはずである。拙著の宣伝はともかく,稲光のピカッを見てから,雷鳴のゴロゴロを聞くまでの時間差で,落雷地点までの距離を測るのは,家の中や車の中でと助言を差し上げ,クワバラ,クワバラと退散させて戴くことにしよう。
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posted by zen at 10:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 雷の研究
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