東北の大震災の悲惨さは、テレビで新しい情報が告げられるたびに増していった。
それにもまして恐々としたのは、福島原発の様子がテレビ画面を通して実時間で放送されているその内容であった。テレビでは、原子炉冷却のための電源が遮断され、危機的な状況にあると告げていた。
翌日だったろうか、原子炉建屋の爆発の様子が、テレビ画面に映し出されたけれど、
「水蒸気爆発で、原子炉そのものは大丈夫である。」
といった内容のコメントが流れ、疑心暗鬼ながら信ずるしかなかった。
何日かして大阪大学のキャンパスで原子力工学専攻の教授に質問する機会があったけれど、その時も
「メルトダウンは、起してませんよ。放射能漏れはありません。」
と、えらく強気な答えが返って来た。後になって知ることになるのだが、その頃実情としは既に、原子力の安全神話は完全に破綻していたに違いなかった。
話は前後するが、津波の恐ろしさをテレビ画面を通じてみることになったのもこの時で、真っ黒な波が押し寄せ、何台もの車を海に運んでしまう様子は、「特殊撮影の怪獣物」よりはるかに迫力があった。車はおろか、戸建ての家も何軒も流されていた。
この時期私は二年の任期で、エジプトアレキサンドリアに長期出張していたのだが、アラブの春革命で一時帰見ることなく国を余儀なくされていた。そして三月末には出張命令が出て、東北地方の復興を見ることもなく、エジプトに旅立って行った。

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