タクシーのメーター、一人当たりなんちゅうのどこの国にあんね。いい加減なこと言うなよ。君ら、メータの金額だけ払って、はよタクシーから降りた方がええで。これ雲助タクシーや!
私が生まれて初めてシンガポールに来た、1989年の1月。昭和天皇崩御の日の事である。ジャカルタ便に乗り継ぐまでの数時間、シンガポールの街を散策したときの武勇伝である。あの当時はこのシンガポールでも、日本人とみれば
「偽物あるよ!」
と、有名ブランドの偽物を街頭で売りつけに来ることもあったほどである。
今となってはどこであったか判然としないけれど、多分オーチャッド界隈だったのであろう。タクシーを探していたら、何やらもめている一台が目に留まった。見れば客は日本人の若い女性が三名で、当惑している風。どうしたのだろうと尋ねたら、
「タクシー降りようとしたら、メーターの代金は一人分だから、三倍して払えというんです。」
というではないか。我々は男性三人連れだったこともあって、私がさっきのことばを英語でまくし立てたのである。タクシーの運転手は正規の代金を受け取り、急発進してどこかに行ってしまったけれど、
「君ら英語でちゃんと交渉せなあかんで!」
と日本人の女性に、おじさんらしく説教して分かれた。
ちなみに今日のシンガポールには、この手の雲助タクシーはまずいない。

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