大気中の雷放電に関わる現象、言い換えると落雷及び雲放電の事なのだが、古くは信仰の対象となるほど、不可思議な現象と考えらえられていた。
ただ18世紀中頃、ベンジャミン・フランクリンにより、「雷放電は、雲内の電気的現象である」と示されて以来、多くの関連研究者の努力もあって、落雷にせよ雲放電にせよ、一通りの理解がなされている。例えば光学観測という観点で論じるなら、ボイズカメラ、ストリークカメラ、さらには電子技術の進歩に負うところの多い高速度カメラ利用へとの変遷に呼応して、コロナ放電の開始、ストリーマ進展、ステップトリーダ進展、帰還雷撃、ダートリーダ(時にはダートステップトリーダ)進展、後続雷撃といった、対地放電のシナリオが提言され多くの教科書に紹介されている。このシナリオは、雷放電に伴って放射される電磁波の観測によっても類似内容の確認が可能であり、詳細な点を除いて、大気電気学分野研究者達の共通の理解となっている。筆者らも、VHF波帯の広帯域干渉計の観測を通して、放電進展のシナリオの確認という点で、少なからず貢献してきたと自負している。
このような経緯を踏まえ本稿では、ステップトリーダの進展に関して、特に負極性落雷に至る過程を、より深い理解を得るべく議論する。光学観測の結果によれば、ステップトリーダは数十メートルの進展と休止を繰り返し、100ミリ秒程度の時間をかけ大地に近づきやがて帰還雷撃に至ることが一般的な理解である。即ちステップトリーダの休止は、その進展により先端の電荷量が少なくなり結果として電界強度が減少、それゆえ電荷が先端に供給されるまで休止しているのだろうという理解である。しかしながら一方、物理学・気体分子運動論の常識として、大気圧力下における粒子の平均自由行程は、おおよそ80nmであることが知られている。この平均自由行程と、ステップトリーダの光学観測を通じて知られている平均長数十mを比較して、筆者らには
「なぜステップトリーダは、一挙に数十mも進展できるのだ?」
といった疑問が常にあり、観測を通じての現象論的理解はともかく、片や数十メートル片やナノメートルというあまりの開きにジレンマを感じていた。

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