2026年01月10日

ついてくるのは影だけ

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私が修士一年生の時の事であるから,40年も昔の話になる。
結構骨の折れる計算を繰り返し,それでももっともらしい結果が出て,漸く学会発表の目途が立った矢先の事である。
先輩のカズオさんのところに,原稿の下書きを持って行ったら,
「電子通信学会に発表を申し込んでおくから。第一著者は僕やけど,善さんが発表していいから・・・。」
と切り出された。
私は,その言葉に自身の顔の強張るのを感じながら,それでも
「僕が第一著者ではだめですか?」
と言いたい気持ちを飲み込んで,ともかくも
「じゃぁ,原稿下書きを読んで,朱書きしておいてください。」
とだけ頼んで,居室に戻った。余談ながら,あの頃はワープロなんてものはなく,学会の原稿は全て手書きだったのである。
その日の夕刻,カズオさんと同級生のマサトさんが居室にやってきて,私に目配せをした。居室を出ろといった合図である。なんだろうと居室の外に出ると,屋上に行って話そうといった風情。そして屋上でマサトさんは,
「あの後,『善さん,博士課程に進学するんやろう。そんなやったら第一著者にしたれや!』とカズオ君にいうたんやけどなぁ。ただあいつ,『僕は,善さんを博士にするために研究してるんやない。善さん一瞬顔つき変わったけど,なんも言わへんかったし,あのテーマは僕が出したの善さんも判ってる筈や。』言いよんね。」
と,おっしゃった。私は骨折りのお礼を申し上げ,
「カズオさんの言うてはったとおり,テーマの出どころはカズオさんですし。まぁ僕なりの工夫もあるし,これが第一著者の論文やったら,あともう二つちゅう計算もありましたが,・。」
と応えつつ,小さかったころに母からよく聞かされた,ついて来るのは影だけという言葉と,釜茹でになった石川五右衛門は,いよいよ湯が煮えたぎって来たとき,自分の子供を自分の下に敷いたという,逸話を思い出していた。
気障なようだが,あの時カズオさんがすんなり私を第一著者にしていたら,私もここまでこれたかどうか。
確かにあの一瞬は,非常に腹も立ったけれど,今となっては,本音で非情だったカズオさんには感謝している。
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posted by zen at 01:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 雷人独白
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