2025年09月13日

広帯域干渉計 17

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VHF広帯域干渉計は、最低三器の無指向性広帯域アンテナで雷放電の進展に伴う放射波を受信し、デジタル干渉法によって放射源の方位と仰角を推定する装置である。現在の時間分解能は百万分の一秒に達し、雷放電の諸現象を詳細に議論・説明・解釈することが可能となっている。それゆえ開発に関わった責任者として、この成果を誇りに思っている。
さらに、かつての愛弟子であるインドネシアのレディーさんが東南アジア各国に利用を広めてくれたこともあって、76歳になったこの私が、いま再び「一箇所三次元観測法」という難題に挑む気持ちを奮い立たせるきっかけとなった。
そもそも「一箇所三次元」とは、我々の干渉計が雷放電研究には優れている一方で、専門外の方には解釈が難しく、一般の方にとっては意味がわかりにくく、実用性に欠けるという弱点を克服する試みであった。四半世紀前に一度取り組んだものの、当時は解決には至らなかったのが正直なところだ。
しかし、この四半世紀で関連技術は飛躍的に進歩し、観測結果をほぼ実時間で表示できるところまで来ている。だからこそ今こそ再挑戦し、一般の方にも理解できるかたちで準実時間の情報提供ができる装置へと仕上げたい。これが、76歳の老人のささやかな狙いである。早い話、一般の方々には「どこに雷が落ちた!」「これは雷鳴だけ」といった情報が必要なのだから・・・。
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2025年09月12日

広帯域干渉計 16

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VHF波帯の広帯域干渉計の話を、久しぶりに再開してみたい。
この装置は、もともと大阪大学の我々のグループが考案したもので、マナブ君やマイケル君らの努力のおかげで「研究用としては、類似のどの装置にも勝る」と自負している。
ただし一方で、実用性という観点から見れば、残念ながらLMAなどに劣る部分があり、忸怩たる思いを抱いてきた。実際、かつてシンガポールの入札に応札した際には、
「研究用の装置としての成果は認めるが、社会実装の実績が無い」
との理由で採用されなかった経緯もある。
それならばと、タケシ君がマレーシアで装置を稼働させ、社会実装を目指す研究資金をJICAやJSTから獲得し、懸命に取り組んでくれている。
私はといえば、もう76歳。プロジェクトが始まった頃には応援団として顔を出す程度だったが、最近になって年甲斐もなく「研究心」に再び火がついた。思い返せば20年近く前、一度挑戦した「VHF広帯域干渉計による一か所三次元観測」。その古い試みを再び掘り起こし、マナブ君やロトフィー君の論文を読み返し、さらにはPythonをいじれるようになって、この二か月余り。AIの助けも借りつつ、ようやく社会実装の真似事くらいはできそうな段階にまでこぎつけた。
肝となったのは、観測データに適応した数値処理である。ちなみに20年前の方法とは、すっかり異なっていて、我ながら「これはなかなかの出来ではないか」と自画自賛したくなる結果を得て、いまはひとり密かに悦に入っている。
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2025年08月30日

広帯域干渉計 15

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「究極の」と考えていた広帯域干渉計にも、まだ改良の余地があることに気付き、マナブ君と私はあれこれ検討を重ねていた。そんな折、マナブ君がドイツ製のAD変換器を見つけてきた。それは、一見すると「矛盾」を含む我々の要求――すなわちデジタル記録でありながら連続的に記録できるという機能――を満たす装置だったのである。
干渉計は雷放電の進展に伴って放射されるVHFパルスを受信する仕組みだ。一般には、放電は間欠的に進むため、ある閾値を設けてパルスをトリガーし、記録する方法が常套である。しかし同時に進んでいると考えられる正のブレークダウンは、振幅が小さいため、閾値を設ける方式では観測に引っかからない可能性が高い。この「見落とし」を避けるためには、デジタルデータを連続的に記録する必要があると私たちは考えた。
そこで目を付けたのが、モバイル機能として開発されたストリーミング方式である。その仕組みを応用したドイツ製AD変換器は、我々の理想に完全に合致するとは言えないまでも、ほぼ的を射た解決策だった。
実際に購入してマナブ君が使ってみると、その性能は十分であり、私たち二人はマレーシアでのプロジェクトの成功を確信するに至った。
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2025年08月27日

VHF広帯域干渉計 14

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SATREPS 採択が決まった年の8月、タケシ君はマレーシアにやって来た。
日本側のプロジェクトは翌年度からの実施予定だったが、マレーシア側は少し前倒しで動き出しており、その表敬訪問としてUTeM とUNITENを回り、それぞれの副学長に挨拶をすることになった。
ここでいう「副学長」とは、実質的には学長そのものである。マレーシアでは大学長の称号は宗教指導者に与えられる名誉職で、大学運営を担うのは副学長だからだ。この制度は、共同研究を始めてみるまでは全く知らなかったことであり、我々の常識を超えるものであった。正直に言えば、驚きの発見であった。同じイスラム教国でも、エジプトとはまるで制度が異なっている。
UTeMはマラッカに、UNITENはクアラルンプール南部のプトラジャヤにキャンパスを構える。私はそれまでにアマールさんと会うため、UNITENを何度か訪れていたが、ある夜には副学長が我々をKLタワーの回転展望台レストランに招待してくださった。その厚遇から、このプロジェクトに対する力の入れようがひしひしと伝わってきた。この会食にはアマールさんも同席し、副学長や学科長に対して、熱心にプロジェクトの概要や重要性を説明していた。
一方、UTeMでの副学長との面談はリデユアンさんが同行したが、こちらは思いのほか淡々としており、二つの大学の力の入れ方の差を肌で感じる機会となった。
ともあれ、タケシ君の滞在は一週間足らずではあったが、意見交換や意思疎通には十分であったと思う。そして翌春から始まるプロジェクトが、ますます待ち遠しく感じられた。
その頃、マナブ君と私は、広帯域干渉計の機能向上を目指しながら、遠隔会議を続けていた。
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2025年08月25日

広帯域干渉計 12

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アマールさんは、UTeMのリデユアンさんをメンバーに推薦した。リデユアンさんは修士課程時代のアマールさんを指導しており、恩師と弟子の関係にあったという。ただ現実には、両者は研究者としてはライバル関係でもあった。実際、UTeMでも干渉計観測を始めており、前年の会食の際には、電気通信大学のホーちゃんと共同研究を進めているらしいことも紹介されていた。
遠隔での会議は、相変わらず二週間に一度のペースで続いた。申請書の骨格も「持続可能性」をキーワードにまとまり、地球温暖化対応や開発途上国支援(実際マレーシアはJICAの支援対象国)という観点から、大きな期待が寄せられるものとなった。当然ながら、マレーシア側と日本側が同時に申請し、両者に矛盾がないことが必須条件であると知らされていた。
さらにJICAからの情報として、
「まずマレーシアの高等教育省がマレーシア側の申請を審査し、その結果、日本側への推薦が決まる。その段階を経て、初めてJICAのヒアリングとなる」
との説明があった。
そして2021年9月下旬、マレーシア側のヒアリングがネットを通じて行われた。日本人ながら私も参加させてもらったが、実際のやりとりはマレーシア側代表のアマールさんがしっかり対応してくれた。リデユアンさんも参加していたが、私と同じく主として聞き役に回っていたように記憶している。
ヒアリングが無事に終わり、気を揉んでいたところ、二週間ほどしてアマールさんから「JICAにマレーシア側から推薦された」との吉報が届いた。私は急ぎタケシ君にも知らせ、
「次はJICAのヒアリングがあるだろうから、頑張ってな!」
と激励した。
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2025年08月24日

広帯域干渉計 11

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とはいえ、いつまでも気落ちしてばかりはいられない。
「マレーシア側の指導的立場の方々は、我々のシステム――VHF波帯広帯域干渉計――のシンパではないようだ。だから正面から申請しても、よほど運が良くない限り採択はされないだろう。」
これが、アマールさんと私との共通の理解であった。
そこで私は提案した。
「それなら日本側が主体となって申請してみよう。私の仲間にまだ現役で研究を続けている者が何人かいるから、声をかけてみるよ。」
当時すでに、マナブ君とは日本とシンガポールという距離を越えて、共同研究らしいことを始めていた。そのこともあり、私はこう判断した。
「リーダーには、私立大学の教授となっているタケシ君が適任だろう。」
こうして、インターネットを介してタケシ君との議論を始めた。
タケシ君はすぐに応じて、
「JICAの競争的資金にSATREPSの公募があります。これは二国間の共同研究にぴったりはまりますよ。」
と提案してくれた。
日本側のメンバーは、相談の上でヤマモトさん、クドウさん、ワンさん、そしてマナブ君に決まった。マレーシア側は、アマールさんと私が中心となって人を集めていった。
こうして人集めを進めながら、タケシ君・アマールさん・私の三人による遠隔会議も続いた。三か国を結ぶオンライン会議は、これまで通り二週間に一度のペースで続けた。
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2025年08月23日

広帯域干渉計 10

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UNITENのアマールさんとの共同申請について、話を続けたい。
思い返すと2020年9月、COVID-19によるロックダウンのさなかだった。
まず、TENAGAへの申請に関してヒアリングがあった。私は単なるオブザーバーで、発言や助言を許される立場ではなかった。考えてみれば、会社内部の議論に外部の私が同席できたこと自体、幸運だったのかもしれない。
それから一週間ほどして、今度は高等教育省によるヒアリングが行われた。こちらは共同申請者として私も出席の義務があり、パンデミック下ゆえにリモートでの参加となった。趣旨説明を含め、研究内容の概要と詳細はすべてアマールさんが語り、その後の質疑応答もそつなくこなしていた。私は安心して画面越しに見守っていた。
ところが、ヒアリングの途中で私に対する質問が飛んできた。
「河崎教授は大阪大学を定年退職されていますよね。それでもマレーシアに来て研究を続けるつもりなのですか?」
私は少し驚きつつも、
「現在はシンガポールの耐雷関係の会社で働いていますので、そのつもりでおります。」
と答えた。
評価委員の顔は画面に映らず見えなかったが、私の経歴をずいぶん知っている様子だった。誰なのだろう、と少し気になったのを覚えている。
それから一月ほどして、アマールさんから結果を知らされた。
「申請は認められませんでした。両方とも。同じ評価委員が審査していたのです。」
その報告を聞いた瞬間、このままではいつまでたっても干渉計の稼働は実現しないのではないかと、すっかり気落ちしてしまった。
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2025年08月22日

広帯域干渉計 9

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私の共同研究の提案に対して、アマールさんは即座にこう答えてくれた。
「広帯域干渉計を、ディジタルオシロなんぞに頼らず、きちんと設計したうえで複数台稼働させたいんです。大学の親会社であるTENAGAに予算を申請してきたのですが、研究所のTNBがすでにVISALA社のLF装置を稼働させているからと、取り合ってもらえない。だからこそ、このアイデアの生みの親であるあなたを会議に招待し、今年は一緒に予算申請をしたいのです。もし共同研究者になっていただければ、本当にありがたい。」
渡りに船とはまさにこのことだ。私はこう応じた。
「大阪大学のグループでは、ほとんど稼働システムとして仕上がっている。だから予算が承認されれば、我々が装置を提供します。UNITENのスタッフはユーザーとして装置を動かす、という枠組みがよいでしょう。」
こうして話はとんとん拍子にまとまり、以後はスカイプを使ってネット越しの定例会議が始まった。二週間に一度のペースで、学生の論文添削や予算申請書の文案を議論した。アマールさんの主題は再生可能エネルギー、特に太陽光発電のプロジェクトであり、その避雷対策にこそ干渉計を役立てたいと考えていたのだ。
二人の会議は時に二時間近くにも及んだが、その甲斐あって翌年には予算要求までこぎつけた。アマールさんはこの要求書を、親会社の電力会社と高等教育省の両方に提出するという戦略をとり、私も申請者の一人に加わることになった。
ただし2020年はご承知の通りCOVID-19の大流行で、国はロックダウン。申請のヒアリングも、リモートでの実施となった。
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2025年08月21日

広帯域干渉計 8

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UNITENのアマールさんのグループに加えて、UTeMのリディユアンさん、そして中国からの参加者も、広帯域干渉計の観測について発表を行っていた。
その日の夕方には、主催者であるUNITENのスタッフが、電気通信大学のホウちゃん、インドネシアのアブバカルさん、UTeMのリディユアンさんを誘って、ちょっとお洒落なホーカーセンターに案内してくれ、会食の場が設けられた。
中国のグループが広帯域干渉計に取り組んでいることは、私にとって特に驚きではなかった。というのも、たしか1997年、岐阜大学・渡辺教授が獲得した科研費で中国奥地に雷観測に入った際、レクロイ社の多チャンネル・オシロスコープを用いた広帯域干渉計を持参したのだが、翌1998年にはすでに同じ装置が中国側で再現されていたからである。
「さすが中国!」
と、その時は決して誉め言葉ではなく、妙に感心したのを覚えている。
冗談はさておき、その会食の席で私は尋ねてみた。
「なぜマレーシアで、これほど広帯域干渉計に熱心なのか?」
すると答えはこうだった。
「2007年か2008年、この地域での国際会議で、バンドンのレディさんが干渉計を紹介したんです。その後、ICLPでもアメリカ・ニューメキシコのマイケルが観測結果を発表して、いろいろ教えてくれたので……。」
ちなみにレディさんは、大阪大学で博士号を取得、私は主査を務めテーマは広帯域干渉計であったのである。
それからおよそ一か月後、私は空路クアラルンプールに向かい、UNITENでアマールさんを訪ね、共同研究を持ちかけることになった。
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2025年08月20日

広帯域干渉計 7

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国際会議を主催したUNITENは、マレーシアの電力会社TENAGAが経営する「私立大学」である。ただし、この電力会社自体が政府系企業であるため、実質的には国立大学に近い存在といえるだろう。
2019年8月末、私は同僚のジェルミさんの車に同乗し、首都クアラルンプール南のプトラジャヤにあるUNITENキャンパスへ向かった。会議の主題は「耐雷・避雷」。電力会社にとっては、極めて重要でありながら頭の痛いテーマであるに違いない。シンガポールからプトラジャヤまでは約400キロ。休憩を挟んでも5時間足らずで到着した。
宿泊先はアマールさんが手配してくれたキャンパス内のホテルで、会議会場までは徒歩15分ほどの距離だった。会場は大学の管理棟に位置する大きな階段状ホールである。ちなみに私はその後も何度かこの会議場に足を運ぶことになるのだが、この時点ではもちろん知る由もなかった。
会議は二日間にわたり、多数の参加者でにぎわい、発表内容も盛りだくさんであった。特に私を驚かせたのは、マレーシア――というより招待してくれたアマールさんが共著となっている論文の中に、VHF帯広帯域干渉計を用いた観測研究が複数含まれていたことだ。いつの間にか、この干渉計を使う研究者が東南アジアに広がりつつある。その事実に気づいたのは、この会議の場でのことであった。そして私は
「引退してたらあかんがな。まだ古希やし、干渉計でもうひと踏ん張りするか!」
と、考え直し始めていた。
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