2023年05月10日

Ultimate Interferometer 6

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我々の長く開発してきた装置の名を正確にいうなら
「VHF波帯広帯域ディジタル干渉計」(Broad band VHFDITF)
と呼ぶべきで、似たような装置を稼働している「同業の研究者」の何割かは誤解をして、似て非なる装置を、広帯域干渉計と呼んでいらっしゃるのではないかと危惧している。(危惧などおせっかいかもしれないが・・・)
つまりVHFDITFは雷放電に伴って放射される電磁パルスをディジタル記録するので、確かに複数のアンテナで受信される信号には、見かけ上の時間差は存在するものの、解析にあたって時間差を陽に考慮に入れる必要が無く、あくまでも波形間FFT 成分毎の位相差が推定できれば良いという点を強調しておきたい。
私達がこの装置VHFDITFを開発したのには、いや開発しなければならなかったのには、もう一つ理由がある。それは「双方向性リーダー」という仮説を観測を通じて証明するという願いである。雷放電は、電気工学など起こる電極間の放電と異なり、雷雲内の言い換えれば大気中のどこかに端を発する。そのどこかは、例えば電荷を担っている霰であったとしても、その霰は電気的に繋がっているわけではないので、リーダーと呼ばれる放電の進展にあたっては、その「どこか」の電荷保存が担保されなくてはならない。早い話負のリーダー(負のブレークダウン)が進めば、進んだ分の負の電荷に同量の正の電荷も反対方向に正のリーダ(正のブレークダウン)として進展せねばならない。ただ負のブレークダウンに比べて正のブレークダウンに伴って放射される電磁波の強度は100分の一程度で、同時に起こっているなら、正のブレークダウンはいうなればマスクされて受信し難く、このあたりが鍵を握ることになる。
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2023年05月09日

Ultimate Interferometer 5

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今日では、中国のグループやマレーシアのグループが、「VHF波帯広帯域干渉計」と称する装置を製作し雷放電の観測に供している。
マレーシアのグループが広帯域干渉計を取り組み始めたのには、インドネシアのバンドンから大阪大学にやってきて、工学博士を修めたレディー・マルディアナさんの影響と聞かされた。東南アジアの国際会議で、レディーさんが「広帯域干渉計」についての発表をしたらしいのである。ただレディーさんの知っている干渉計は2003年か4年当時のもので、大阪大学ではさらに改良を加えている。それからレディさんは、相互相関係数の最大値を与える時間差を、受信されたパルス間の時間差として採用、「理想化された時間差法」に拘っていたので、私の定義から言うと干渉計にはなっていない。マレーシアのグループのデータ処理法について、詳しく調べたわけではないけれど、多分レディーさんの手法を踏襲しているのだろう。
一方中国のグループについては、1997年か8年岐阜大学のプロジェクトで中国の奥地で雷放電の観測をした際、多チャンネルディジタルオシロスコープを記録系として利用していた、開発途上の装置を持って行ったら、次の年には同じ仕様の装置を製作していた。それ以来、彼らも「広帯域干渉計」を観測に用いている。
ただ、私が気にしているのは、
「受信機の帯域、その帯域での利得は概ね一定になっているのか?」
という、素朴なしかし根源に関わる疑問なのである。
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Ultimate
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2023年05月08日

Ultimate Interferometer 4

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VHF広帯域ディジタル干渉計の観測には、一か所の観測点に三基の受信機がいる。
このことは昨日すでに述べた。
その受信機を広帯域とするために20MHz〜80MHz の帯域で利得が可能な限り一定となるよう腐心したことも述べた。FFTで周波数分解して数値処理するにあたって、周波数に依存して利得が異なるようだと、形式的には「周波数分散」の影響が出て、FFT周波数成分毎の位相差から、到来方向を推定することが非常に困難となる。理想的にはFFT周波数成分毎の位相遅れが、線形である必要があるのだが、このことをわかりやすく言うなら、各アンテナにより受信される電磁パルス波が、すべて同じ形状(少なくとも相似形)でなくてはならないという事になる。ただ現実的には、地形の影響や構造物の影響による多重反射の影響もあって、微妙に異なることが多く、FFT周波数成分を独立変数とする位相差の線形関係は、いつも担保されるわけではない。ここでは詳細には言及しないが、平均値、最頻値、中央値、標準偏差を活用しての最適化を謀っている。
我々大阪大学のグループが、この装置を国際会議で紹介し、同業者に批判を問うたところ、
「それは干渉計ではないだろう!時間差法に過ぎない。」
という酷評や、
「理想化された時間差法と呼ぶべき。」
という親派があった。
そして次の年の国際会議では、
「波形の相互相関係数の最大値を与える時間差を用いれば、数値処理も早い!」
といった装置を製作する海外のグループがいて、「広帯域干渉計」が、雷放電の研究分野で、広く知られるところとなったのである。
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2023年05月07日

Ultimate Interferometer 3

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広帯域干渉計について説明する。
同じ特性を持つ三基の受信機に入力する信号を、三基のアンテナを適当な間隔で配置して受信する。簡単なのは直角二等辺三角形の三頂点にアンテナを設置することだが、必ずしも直角三角形である必要はない。アンテナが三基以上あれば、二基ずつを組み合すことにより、幾何学的には互いに独立な二ベクトルが一組(二つ)定義でき、原理的にはアンテナの設置された地点に入射する放射源の、方位・仰角が推定できる。アンテナの間隔はある程度長い方が精度は上がるものの(波長÷間隔で決まる)、長すぎると波形の相関が悪くなるのでむやみに長くとることはできない。
通常の干渉法は、アンテナからのアナログ信号を受信回路で重ね合わせ位相差を求める(FM受信の原理)のだが、我々の干渉計はこれを以下のようにディジタル的に実現している。
1.受信パルスをFFTで周波数成分に分解
2.FFT周波数成分毎の位相差を計算
3.アンテナ系に対する入射角を決定
4.二組のアンテナ系の入射角から、アンテナ位置への、方位仰角を推定

とはいえ求められる入射角は、必ずしもすべての周波数で一定というわけではないので、平均や分散を求めたりして最適な解を導出するよう配慮している。我々はこれをディジタル干渉法と定義し、受信系や解析プログラムを改良し、今日に至っている。
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2023年05月06日

Ultimate Interferometer 2

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帰還雷撃電流の速度を電光を記録して推定するのに、パルス状の信号波形が最大値をとる時間差によるのが普通だった。ただこの方法だと、電流パルスの形が進行とともに変わらなければ良いけれど、実際に記録されている波形は高さとともに変形しており、最大値が遅れ気味になっていることから、それでよいのかと疑問を抱いた。一方光パルス先端が到達する時間差を基にして推定するという考え方もあるだろうが、その方法だと受光装置の感度に依存するという問題もあり、私個人としてはあの時「速度の定義」に対し問題提起したつもりであった。
以後の帰還雷撃速度に関しての細かな説明は省略するが、その後10年余り経過して、VHF波帯広帯域干渉計の設計・製作に着手した時、
「伝搬とともにパルス信号は変形する」
という、かつての光学観測を思い出した。
確かに雷放電の進展に伴って放射されるパルス状の電磁波は、大気中を伝搬して受信するアンテナに届くのだから、空気による媒質的な分散をほとんど受けないとはいえ、受信信号の増幅に周波数依存があっては同様の問題が起こりうると思案して、広帯域の受信機を実現(VHF波帯で20MHz-80MHz)することに腐心した。これが我々の干渉計を広帯域と修飾語をつけて命名した理由である。その後の改良や最新に近い観測結果も含め、以下順に紹介させて頂くことにする。

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2023年05月05日

Ultimate Interferometer

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端午の節句 子供の日

しばらく専門の話題を提供したい。
我々大阪大学の雷放電研究グループ(Lightning Research Group of Osaka University: LRGOU)が、おおよそ30年の年月をかけて開発してきた、雷放電路可視化装置(VHF Broadband Lightning Channel Imager: VHF LCI)に関してである。ただその源流は、大阪大学工学部の通信工学科で、電磁界理論の研究で工学博士の学位を取得した1970年代にまで遡ることになるので、かれこれ半世紀に及ぶという事になろうか。
1979年春、私は名古屋大学空電研究所(愛知県豊川市)に助手の席を得て赴任した。本来人工電磁雑音の研究をするという事で、採用されてのだが、研究所ほとんどの部門が、自然由来の電波観測を目的としていたこともあって、私は少しずつ研究対象を移しながら、際やがて雷放電の研究に軸足を置くことになった。そして最初に関わったのが、雷撃電流速度の測定で、これは複数の受光素子を並列に配置し、複数の高度からの雷撃電流に伴う発光を受信し、その時間差から速度を推定しようとするものであった。やり始めた頃、フロリダグループのJordan氏がストリークカメラで撮影されたフィルム上のアナログ信号をディジタル化し、記憶に間違いなければ、異なる10高度の発光信号としてJGRに発表していた。ただその内容を見て、電流パルスに比例するであろう光信号が、進行に伴って変形しており、電磁界理論で学んだ「分散性媒質内の電磁パルス伝搬」を強く意識した。

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2023年05月03日

雷放電の研究 3

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とまぁ、ここまでは概論と夢の話しですが、申請にあたっての現実的な話題を次に提供します。ただその前に、なぜシンガポールの研究者が共同研究の候補者にならないかと言いますと、シンガポールの電力供給はほぼ完全に地下ケーブルですので、大気電気学の権威者はいません。NUSでやっているのは高電圧工学ですが中心ですから、近隣のインドネシアやマレーシアに的を絞った次第です。
インドネシア及びマレーシアは、世界三大雷活動地域(三つの煙突)の一つに属し、一年当たりの雷雨日数はおおよそ200日弱です。ただ雷雨日数と一括りにして扱う事が多いですが、熱帯地域のモンスーンに伴う雷活動と、モンスーンとモンスーンの間の雷活動があるうえ、前者には北半球の夏季にあたるモンスーンと冬季にあたるモンスーンがあって、雷性状が果たして同じなのかどうかは明らかにされていません。さらにこの地域は気象学の分野では海洋性大陸(Maritime continent)に分類されており、大陸型の雷放電活動(あるいは積乱雲の成り立ち)との類似点及び相違点はCAPE(Convective Available Potential Energy)の観点からも観測を通して理解する必要があります。かかる意味でレーザー誘雷をより確度を高くするため、VHF波帯広帯域干渉計(VHF Broadband Lightning Channel Imager)を主たる観測手段、LF帯放電路可視化装置(Lightning Channel Imager: LCI)補助手段として、雷放電活動に寄与する雷雲内の電荷分布を明らかにすることを目指します。さらには、得られた知見をこれまでに知られている大陸型の積乱雲や、我が国の積乱雲(夏季及び冬季)と比較し、レーザー誘雷実現のための指標を示したいと考えております。まだまだあるかもしれませんが、とり急ぎ現時点での可能性です。
最後に先を見越しての内容です。
積乱雲内の電荷分離過程を高い時空間分解能で観測し、雷放電の開始を事前予測しようとするものです。着氷電荷分離の様相の解明のためには、高度方向の温度分布、水分量測定、粒子形状、粒子速度(落下もしくは上昇)の測定が肝要で、これはレーザーという武器で測れるのではないかと考えております。このあたりは、二三か月かけて調査し、秋の科学研究費申請に臨めればと考えております。
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2023年05月02日

雷放電の研究 2

⇒⇒⇒⇒ 投票を願います!雷放電に関する研究は、耐雷・防雷という側面と、大気科学という側面に大別できるのではないかというのが私の持論です。そして科学研究補助金への申請には、大気科学の立場に立っての方が有利かと考えています。加えて大気科学の観点も、「積乱雲の発生及び電荷分離」に始まって「放電の開始、進展」を経て「積乱雲の衰退、雷放電活動の終焉」に至るまでの様々なフェーズがあり、我々の干渉計では、放電の開始(場所、時刻)や放電進展の様相を三次元的にとらえることが出来ますし、電界計の観測と併せることにより放電に寄与した電荷の位置や量も定量的に推定できるようになっています。加えて雷放電の機構を深く理解するため、干渉計の時間精度分解能は、サブマイクロ秒まで高めてあります。しかし残念ながら先に紹介した「積乱雲の発生及び電荷分離」という側面に関しては、干渉計の観測は陽には寄与しないだけではなく、現象自体は分の単位の観測で十分と考えられ、このあたりが雷放電研究の難しいところとなっています。さらに「積乱雲の発生から終焉までは」時間尺度では一時間超ですから、現象論的には、積乱雲活動の理解には時間の分解能が必要であるのに対し、ひとたび雷放電が起こればサブマイクロ秒の分解能が必要ですから、8桁から9桁の開きがあるのです。言い換えれば気象学的な観点からの雷放電活動の議論は、なかなか嚙み合わないというのが実情ですし、そのあたりが雷放電活動の研究および予測の難しさに違いありません。実際テレビ放送の気象予報では、依然として雷放電活動が「あった」、「なかった」の一ビットの情報しか報告されていないことからも、判ると思いますし、雷活動の活発な東南アジアでも、同様と言っても言い過ぎではないと考えてます。たとえ雷雨日数や、雷放電の1平方qあたりの年平均値が求められていることを考慮したとしても、結局情報量としては1ビットなのです。
一方シンガポールに来てほぼ10年、雷活動の多発時期には、毎日のように雷鳴を聴き
「日本に比べて、いかにも活発だなぁ!」
の実感はあります。しかもその雷鳴も日によってまるで異なった印象であることが多いような気がしており、観測手段のさらなる工夫により、学問的に議論を進めることが可能ではないかという、夢のような希望です。例えば「電荷分離機構の様相」を、リモートセンシングできれば、それもサブミリ秒単位で定量計測できれば、雷放電の開始を秒単位で予測できるようになるのではないかと考えています。

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2023年05月01日

雷放電の研究

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LISはTRMM衛星に搭載され10年余り観測を行い、数多くの気候学的成果を上げ、その使命を全うしたと理解しております。その成果の一つが、
「静止衛星軌道に搭載して常時観測を実施し、気象学的に利用することの有用性の実証」
と私は理解しております。その結果NASA やNOAAは静止衛星に電光観測の装置の搭載を実現、Severe Storm の予報、予測(Nowcast)に利用しています。しかし我が国の気象コミュニテーではそこまで機運の盛り上がることはなく、地上観測(レーダー観測)に軸足を置く道を選択したというのが、私の理解です。
各コミュニティがそれぞれの結論に至った一つには、アメリカの場合、気象システム(気団)が陸上を東進、地形の影響を受けながらも、急激に大きく変わることがないのに対し、我が国の場合、気団の東進(移流)は日本海の影響を直接受けるため、電光の衛星観測を頼りにNowcastすることの難しさにあるからだと考えております。
一方私達(阪大・電気系・環境電子工学講座)は、受動的な雷活動観測(干渉計等)と能動的な積乱雲観測(レーダー)に関わってまいりましたので、こういった気象研連の方針をむしろ好機と考え、まずは日本国内での観測を充実させ、続いて東南アジアでの展開を実現しようと考えて、今日に至っております。ただレーダー観測は技術的な難しさはもちろん、費用もかさみますので、狙いとする東南アジア諸国には、受動的な雷活動観測がより有効と考えているというのが実際のところです。
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2022年09月19日

上向き正リーダで開始する高構造物への負極性落雷

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KL(クアラルンプール)に来ている。
マレーシア出張は、先月中旬に続いてで、SATREPSに関係しての出張である。シンガポール・クアラルンプールは、わずか一時間のフライトだから、老人の私にもあまり苦にはならない。とはいえ昨日は朝からの雷雨もあってだろう、クアラルンプール到着が一時間近くも遅れた。日本からやって来る、M君よりは小一時間早くホテルに到着している筈だったのに、逆に30分程私の方が遅くなってしまった。早い・遅いに勝ち負けなんぞあるわけはないが、チャンギ空港で一時間もよけいに待ったからであろうか、何やら疲れが出た気がしている。
そもそも今朝の雷雨、あたり一面白くなるような雨が降っていたところに、いきなりの爆発音、それこそ鉄砲の「バン!」という音に近い。いきなりのと付け加えたのにはそれなりの意味があって、私自身
「これって、近くの高層ビルから上向き放電で開始する落雷じゃぁないのか?」
と、なんとなく感じている。きちんとした観測に基づいての結論ではなく、単に印象というか直観というかなのだが。気取って言うなら、学者の感というべきだろうが、いきなりの「バン!」は、明らかに聴き慣れている雷鳴と違いすぎる。さらに重ねていうなら、
「上向き性リーダーではじまる、高構造物への負極性落雷」
で、なんとしても観測的に確かめてみたいと、強い希望を持っている。
はてさて夢がかないますように。
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