今は、シンガポールの自宅にいる。
マラッカ界隈を、観測場所や実験できそうな場所を探し回って、雷観測を始めた若かったころをついつい思い出した。名古屋大学の空電研究所にいた頃は、先輩の仲野さんについて行って、あれこれ学んだものだが、大阪大学に席を得てからは、自分の責任で決断する義務が付いて回ったものだ。インドネシアのロケット誘雷、バンドン近くのチアタ村やボゴール近くのプンチャ峠、名古屋大学名誉教授の堀井先生がリーダーだったけれど、まぁ御高齢で諸事決定は、我々に委ねられたものであった。その後のアメリカでの観測、さらには長年に及んだオーストラリア・ダーウィン郊外での観測は、責任は私自身の肩に完全に乗っていた。若い学生さん達と相談はするものの、最終判断は全て自身でする必要があった。
今更ながら、学生さん達にけがもさせることなく遂行できたのは、何にもまして幸運だったというべきだろうか。そしてその観測の成果で、両手に余る工学博士も輩出できた。その半分は新しい道を見つけて進んでいるし、残りの半分は未だに雷放電の研究に携わっている。だから今回のM君のこのプロジェクトは、ある意味私にとって集大成で、手放しで喜んでばかりはいられない。老骨に鞭うって、若い仲間と、さすがに山野は駆け巡れないけれど、可能な限り貢献したいと、改めて自身を鼓舞している。

クリックして投票を!