バスは谷瀬の吊り橋を目指して,渓谷に入る。
実はこの私,もう10年ほど近く昔,一度この168号線を南下したことがある。五條から星降る村の大塔村を経由して,谷瀬の吊り橋から十津川温泉を訪ね,その後少し戻って和歌山県の橋本にぬけたと記憶している。ただあのときは十津川の渓谷沿いに車を駆ったので,奈良県南部は紀伊山地の中という認識はなかった。そしてその時は,
「いやはやすごい渓谷だ。」
といった,ありきたりの感動だけであったろうか。
ただ今回は,バスが進むうちに2年前の大雨による崩落の跡がそこかしこにあり,一つ一つの被害の凄さが眼に焼き付いた。
運転手さんは,崩落現場で一村がすっかり流されましたといった説明を下さりながら
「口に出しては,あまりはっきりとは言いづらいですねぇ・・。」
と付け加えていた。多分会社の同僚や,友人知己が亡くなられたのだろう。
2年前の台風による大雨の時,私はアレキサンドリアに赴任しており,インターネットを通じて知っているだけだから,何やら現実味が乏しかったのだが,こうやって現実を知ると,もう2年もたっているのに,復興はまだまだとの印象が強かった。とりわけ渓底が半分近く土砂で埋まっていたり,崩落でながされたのであろう,枯れ果てた樹木が散らばったままになっているのを見るに,万感迫るものがあった。
やがてバスは谷瀬の吊り橋・上野地に近づき運転手さんから
「この連休中は,吊り橋は一方通行になっていますので,新宮まで御乗車予定のお客様には,トイレ休憩中に渡って頂くことはできません。対岸からバスで戻って頂くとしても,一時間以上かかりますから。」
とちょっぴり,悲しい情報。先日のテレビ番組では,紹介していたアナウンサー氏が,ともかくも途中まで渡っていた筈で,何やら騙されたという感じになった。

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