K社まで案内してくれたタクシーの運転手さん,いやはや陽気な方で,おまけに御年75歳ときた。若い頃にはタクシーにも乗っていたことがあったそうだが,昭和39年というから東京オリンピックの年に,長距離トラックの運転に転じたという。そして運送会社を定年残しで退社し,一年程してタクシーの運転に戻ったのだそうだ。ただ定年後の事で,正社員ではなく嘱託だとのこと。こういった話を私が尋ねてもいないのにあれこれ語ってくださった。若い頃の武勇伝は,加古川から神戸まで30分でお客を運んだこと。
「いやあの頃は,信号が三つか四つだったからねぇ!」
と,何度も聞かされた。
「車線数も少なかった,多分一車線で,それを右から追い抜いたり,左から追い抜いたりと・・・」
と武勇伝は続く。加古川駅でのり外されたお客を猛スピードで運んで,明石や三宮で列車に追い付くのだそうだ。30分は最短時間で,それも一度きりとおっしゃっていたが,それにしても,恐ろしく速い。何と言っても高速道路ができる以前の話だから,驚きである。
「ただ今は歳もとって,あまり無茶はできない。速いのが来たら,お先にどうぞって気分になる。何と言ってもお客にけがはさせられないから。」
なのだそうだ。それにしてはスピードが出ているけれど・・。
それから話は,安倍首相に急に飛んだ。
「今の首相は,若いときこの町で働いていたんだ!」
とおっしゃる。この町にある製鉄系の大会社に勤務していたとかで,数年前に首相を務めた折,その大会社を訪ねてきたことを,嬉しそうに語ってくれた。
「鋼の匠」と揮毫してあるとのことであった。
そんな運転手さんの話で,20分程の道のりも退屈することもなく,目的地に到着した。

クリックして投票を!